“血糖トレンド”をどう活用するか

糖尿病治療における、血糖トレンドの有用性と活用性

南 昌江 先生医療法人 南昌江内科クリニック 院長
筆者について

1.糖尿病 その治療目的と血糖管理指標

 糖尿病は慢性的な高血糖で定義される疾患です。慢性の高血糖により細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)や大血管症(脳心血管障害)という合併症を来し、そのことがQOL低下や寿命の短縮を招きます。よって、糖尿病を治療する目的は、糖尿病でありながらも糖尿病でない人と同じQOLと寿命を達成することにあります。その治療、ことに細小血管症の抑制において、血糖の管理が極めて重要であることは論をまちません。

 現在のところ、血管合併症を抑制するための標準的な血糖管理指標はHbA1cです。一般的にはHbA1cを7%未満とし、高齢者の場合はこれをやや高めに設定することが推奨されています。確かにHbA1cは測定時点から過去1~2カ月の平均血糖値を反映する代替マーカーですから、慢性疾患である糖尿病の管理状況を把握するのに適した指標と言えます。HbA1c以外にも、より短期間の血糖マーカーとしてグリコアルブミンや1,5-AGといった指標があり、状況に応じて用いられています。

 ただ、これらのマーカーはすべて測定時点から過去にさかのぼって一定期間の平均的な血糖レベルを、たった一つの数値で表すものですから、当然ながら血糖の日内変動や日差変動は把握できません。よってHbA1cを下げようとするとき、どの日の、どの時間帯にターゲットを絞って介入を強化すべかは、経験側に頼るしかなく、一筋縄に行きません。

 また、例えば、既にHbA1cが6.9%と目標を達成している二人の患者さんがいたとします。しかし、その二人の血糖値は表1に示すように大きく異なる可能性があります。その違いを、これらのマーカーでは全く把握することはできません。

表1 HbA1cが良好でも血糖コントロールが良好とは限らない

AさんもBさんもHbA1c値は6.9%です。
どちらが血糖コントロールが良好でしょうか?
朝食前 朝食後 昼食前 昼食後 夕食前 夕食後 就寝前
Aさん 101 179 135 181 133 165 129
Bさん 86 297 72 287 65 336 79

1)低血糖を避けることの重要性

 表1に挙げた患者さんBは、患者さんAにくらべて夜間や食前の低血糖が頻発していることでしょう。しかしそれでもかつては患者さんBの血糖管理も「可」または「良」と判断されていました。以前は多少の低血糖をいとわずにHbA1cを下げるほうがよいと考えられていたからです。

 しかし現在、このような考え方は否定されています。その理由は、ACCORDなどの大規模臨床研究の結果から、厳格な血糖管理が招来する低血糖が総死亡のリスクを上げる可能性がわかったこと、また低血糖が認知症のリスクであることが示唆されつつあること、そして、低血糖を来さずに良好な血糖管理を達成し得る薬剤と血糖モニタリングシステムの双方が普及してきたことによります。現在でももちろんHbA1cの目標達成は重要ではあるものの、そのために低血糖が頻発してしまうようであれば、血糖管理を多少加減し、低血糖を極力避けることを優先するように変化してきています。

2)高血糖を避けることの重要性

 また表1をご覧いただくと、患者さんBは患者さんAにくらべて食後の高血糖が頻発していることがわかります。食後高血糖は、大血管症の危険因子ですので、糖尿病の治療目的である「健康な人と同じ寿命」を確保するには、やはり介入が求められます。

 このように低血糖と高血糖はいずれも回避する必要があるのですが、そのいずれもが、HbA1cをはじめとする血糖代替マーカーでは把握できません。

2.血糖自己測定(SMBG)

 このような血糖マーカーの及ばない点を補う検査として長年活用されてきたのが、血糖自己測定(Self-Monitoring of Blood Glucose:SMBG)です。

 SMBGは1970年代から普及し始め、健康保険適用や機器の進化により糖尿病医療に欠かせない存在になりました。SMBGによって血糖値を知りたい時に短時間で測定でき、低血糖や高血糖に対処できますし、毎日測定することで、それぞれの患者さんの血糖変動パターンが見えてきますので、それを明日からの血糖管理に役立てることが可能です。

 一方、現行のSMBGの欠点として、穿刺時の痛みがあり測定操作が煩雑、保険診療で測定回数(試験紙の枚数)が限られる、血糖値が上昇中なのか下降中なのかの判断が困難、睡眠中には全く測定できない、医療者への虚偽の報告や測定するばかりで結果を治療に反映できていない患者さんの存在、経済的・精神的負担などがあります。

3.連続血糖測定システム(CGM、SAP、FGM)

 こういったSMBGの欠点を補う血糖モニタリングシステムとして近年、注目されているのが連続的血糖測定システムです。

1)'点'から'曲線'の測定に進化し、「血糖トレンド」がわかる

 連続的な血糖測定を可能にした機器として、CGM(Continuous Glucose Monitoring)、SAP(Sensor Augmented Pump)、FGM(Flash Glucose Monitoring)の三つが挙げられます。それぞれにやや相違はありますが、共通して言えることは、これらを用いることで血糖変動をほぼ連続的に把握することができ、SMBGとは比較にならないほど豊富な情報を得られるという点です。つまり、24時間、常に変動している糖尿病患者さんの血糖値を'点'ではなく'曲線'で捉えられる、言い換えれば「血糖のトレンド」がわかるということです(図1)。

図1 '点'ではなく'曲線'で捉えることで1日の血糖の流れがより直感的に理解できる
図1 '点'ではなく'曲線'で捉えることで1日の血糖の流れがより直感的に理解できる
いつも測らない時間帯(特に食後、夜間)の血糖の動きが分かる

 具体的な例を挙げてみましょう。

 SMBGで血糖値が「75mg/dL」と表示されたとします。仮にこれが血糖値の下降局面での数値であるなら、低血糖の予防のために補食が必要かもしれません。反対に血糖値が安定していたり上昇局面にあるなら補食は不要でしょうし、不必要な補食によって高血糖を来すことも起こり得ます。しかしSMBGの'点'の情報からそれを判断することはできません。やや時間をおいて再測定し、'点'と'点'をつないで'直線の傾き'を思い描いて判断する必要があります。

 一方、連続血糖測定システムなら血糖変動を常に'曲線'で把握できますので、すぐに対処すべき状況か否かを瞬時に判断できます。これが血糖トレンドをみる利点の一つです。SMBGでも1日、10回、20回と測定回数を増やしていけば血糖トレンドを大まかにみることができますが、現実的ではありません。

 そしてなにより、SMBGではほぼ不可能な睡眠中の血糖値の把握が、連続血糖測定システムによって可能となることは、強調されるべき特徴と言えます。昼間の活動中には低血糖を起こさない患者さんでも、夜間睡眠中に低血糖を頻繁に起こしていることが多いという事実は、これらの機器が普及してきたおかげで明らかになってきたことです。

 前述のように低血糖は現在、心血管イベントのトリガーとなり死亡リスクを高めること、認知症のリスクとなり得ることが注目されています。SMBG時代には睡眠中の低血糖によるそれらのリスクが見逃されていた可能性があります。

 その他、いずれの機器も採血は不要ですから穿刺の痛みがないに等しく(痛みがあるとしても大半は機器を装着する時のみ)、煩雑な測定操作が必要ないという特徴もあります。

2)CGM、SAP、FGM、それぞれの特徴

 ここで、各連続血糖測定システムそれぞれの特徴を簡単にまとめます。

 なお、これらの機器で測定に用いるのは皮膚組織間質液中のブドウ糖濃度であり、それを血糖値に換算し結果を表示しているので、正確には血糖値とは異なります。そのことをふまえた上で、実臨床においてはほぼ同義と考えて支障ありません。

CGM

 数分おきに測定を繰り返し、1回の機器装着で連続測定できるのは数日から1週間程度です。測定終了後に血糖変動をレトロスペクティブに出力するものと、リアルタイムに測定値がわかるタイプがあります。前者はインスリンや薬剤の変更等の判断に使われます。後者は患者さん自身によるマネージメントを目的とした外来で使用可能です(2017年10月時点では、国内ではインスリンポンプ併用タイプ:SAPのみ)。CGMは一日数回、SMBGで測定した血糖値による較正が必要です。後述のFGMもリアルタイムCGMの一種とみることもできます。

SAP

 リアルタイムCGM機能を付加したインスリンポンプです。インスリンを持続的に注入するCSII(Continuous Subcutaneous Insulin Infusion:持続皮下インスリン注入)療法をより最適化するために、インスリン注入量をこまめに調整できるようにすることを目的として用います。SAPに付加されているCGM機能も、一日数回、SMBGで測定した血糖値による較正が必要です。

FGM

 腕に装着する500円玉大の使い捨てセンサーと、測定結果を読み取るリーダーからなります。1つのセンサーは最長14日間使用可能で、その間、センサーでは連続かつ自動的に間質液中のブドウ糖濃度を測定・記録します。センサーをつけたまま入浴等も可能です。CGMと同様に、レトロスペクティブにデータを出力するもの(医療機関用)と、リアルタイム(スキャン時)でわかるもの(在宅用)の2タイプがあります。後者は、上腕に装着したセンサーをリーダーでスキャンすることで、その時点の血糖値はもちろん血糖変動を過去8時間までさかのぼって、いつでも瞬時に読みとることができます。2017年9月1日より、1型あるいは2型糖尿病でインスリン製剤やGLP-1製剤を自己注射している患者さんに保険適用となりました。

4.血糖トレンドの活用法

 このFGMの一つである、FreeStyleリブレを用いて血糖管理状態が改善した2症例を紹介します。

1)症例1:低血糖への恐れのためにHbA1c高値が続いていた患者さん

 最初の症例は30代男性の1型糖尿病患者さんです。約10年前に発症し、しばらくは血糖管理良好でしたが、重症低血糖で救急搬送されたことをきっかけに"低血糖恐怖症"のようになり、毎日6~8回もSMBGを行い、血糖値を高めに維持することで低血糖を避けるようにしていました。当然HbA1cは高く8~9%台でした。

 FreeStyleリブレ装着後の血糖変動を図2(FreeStyleリブレのレポート)に示します。少しずつ高血糖が改善されてきていることがわかります。この患者さんは、インスリンを増量する以外にも、夕食後しばらくたってから血糖値が上昇するのは蛋白質や脂質の摂取量が多いためであると考え、それを少し控えるようにしたり、昼食後の高血糖に対しては、超速効型インスリンを食事の直前ではなく15分前にするようにしたりしたそうです。そのような変更をしても、低血糖はほとんど起きていないことも血糖変動レポートからわかります。

 ご本人は「インスリンを増量するのは怖かったがFreeStyleリブレで常に血糖値を確認できるのでよかった。SMBGの頻度が減り楽になった。7~8年ぶりにHbA1cが7%台に下がりうれしい。もう少し下げられると思う」と語っています。FreeStyleリブレが治療モチベーションを非常に高めたようです。

図2 症例1におけるFreeStyleリブレによる日内パターンの変化
図2 症例1におけるFreeStyleリブレによる日内パターンの変化

2)症例2:HbA1c良好でも無自覚性低血糖を起こしていた患者さん

 もうお一人は70歳代女性の1型糖尿病患者さんです。HbA1cはいつも6%前後と非常に良いのですが、この方は逆に"高血糖恐怖症"で、SMBGの記録をみると「50」とか「60」という数字がたくさん並んでいます。診察の際に「低血糖は危険ですからインスリンをもう少し減らしてください」と伝えるのですが、「そうすると血糖値がすぐに上がるからできない」とおっしゃいます。

 そこでFreeStyleリブレを付けていただいたところ、朝目覚めてから夜間の血糖値を読みとると、しばしば低血糖になっていることに気づかれ、「これはいけない」と自覚されてインスリンを減らし始められました。得られた血糖変動レポートをみますと、早朝にまず少し低血糖になりやすいようですが、血糖の日内変動・日差変動が少なく血糖変動が平坦になってきていることがわかります(図3)。

 ご本人は「血糖値の流れがわかるので安心、納得できた。夜間や夕食前の低血糖が多いことがわかり、持効型溶解インスリンと昼食前のインスリンを減らした」と語っておられ、今でもFreeStyleリブレを使われています。

図3 症例2におけるFreeStyleリブレによる日内パターンの変化
図3 症例2におけるFreeStyleリブレによる日内パターンの変化

5.まとめ

 個人的な話ですが、私自身も1型糖尿病歴が40年になります。発症当時の血糖測定器は弁当箱ぐらいの大きさがあり、コンセントがないと使えず、測定に時間がかかり、価格も16万円ぐらいして、しかも保険が適用されませんでした。今日、SMBG機器は小型化し、どこにでも持ち運べ、穿刺等の時間を含めても数分で測定でき、保険も適用されます。この間の進歩は素晴らしいものです。40年前に、このような素晴らしく進歩した糖尿病医療は想像できませんでした。

 そして今、連続血糖測定システムが登場し普及しつつあり、糖尿病医療がさらに前進するステージにあるのだと感じています。

著者プロフィール

南 昌江先生先生

南 昌江(みなみ まさえ) 先生

医療法人 南昌江内科クリニック 院長 ▶

1988年、福岡大学医学部卒業後、東京女子医科大学付属病院内科入局/同糖尿病センターにて研修。1991年、九州大学第2内科 糖尿病研究室所属。1992年、九州厚生年金病院内科勤務。1993年、福岡赤十字病院内科勤務の後、1998年、南昌江内科クリニック開業。
14歳の夏、糖尿病を発症。以来40年以上、インスリン注射と共に糖尿病のある人生を送る。自身の経験と知識を生かし、糖尿病専門医として、多くの糖尿病の患者たちと接している。
著書に『わたし糖尿病なの』(医歯薬出版/1988年・共著)、『アイデアいっぱい 糖尿病ごはん』(書肆侃侃房/2011年)がある。
日本内科学会内科認定医、日本糖尿病学会専門医。

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