血糖簡易測定器が作られた

  • 後藤 由夫 (東北大学名誉教授、東北厚生年金病院名誉院長)
2015.09.16
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1. 文革と学園紛争の蔓延で医局の改革もはじまる

 わが国ではブルーカラーの労働者の健康保険としてはじまった健康保険が戦時中のどさくさにまぎれて医師会の請負方式を廃止し保険課が保険医に支払う制度となり、敗戦後は政府が強く干渉できる制度に変わった。医科大学の教員が関心を持たなかったこともあって、医師の診療内容を支払い面から規制できるようになってしまった。
 1961年には国民皆保険制度となり、医療が経済面から論じられるようになった。戦後のベビーブームが続いて人口が急増し医師の需要も増した。幸いにも戦時中に軍医養成のため医学校が22校も開校し、その卒業生が多かったのでそれに対応できたわけである。もし戦後であったら医学校を一挙に20校も造ることはできなかったろうと思われる。
 敗戦後は連合軍総司令部(GHQ)が医学教育にも医療にも改善を命じた。その一つがインターン制度である。1948年より制度化された。同年9月に卒業した筆者は1年のインターンをやった。各校の代表が集まって会議を開いたが、1つの議題は無給のことであった。そのことは審議会も長年対応せずにいた。
 1966年中国で文化大革命が起こりそれは毛沢東の死と四人組の逮捕で1977年に終了したが、その影響で世界中に学生運動がはじまった。わが国では無給インターン制度が発端となって、インターンのボイコット運動が起こり1968年にインターン制度は廃止された。
 いろんな問題があったが、旧態依然の大学では内科が3講座に増設された。弘前大学でも3講座になり、筆者が教授に選ばれた。
 新設の講座なので机、椅子から揃えることからすべてを教授が調達しなければならない。古い教室ならどこかに試験管もあるが、引き出しを開けてもゴミもなければ何もない。幸い新卒の医師が9名入局、他の内科からも講師をいただいて、日本一の糖尿病研究室を目標に教育、診療、研究をはじめた。

2. Reflectance meterの開発

Reflectance meter
外形寸法 約110×50×160mm(幅×奥行き×高さ、突起部を除く)
写真/バイエル メディカル株式会社

 私達の教室が開講されたことを聞きつけて、簡易血糖測定法を開発していた米国のAmes社が簡易血糖測定器Reflectance meterを開発したので、その有効性を検討してほしいと頼んできた。
 これは1948年KeilinとHartreeがブドウ糖酸化酵素結晶を用いて消費されるO2量を測定することによりブドウ糖量を定量し、1959年にKeston、Tellerらがこれにperoxidase反応を組み合わせて比色定量法を確立し、Clinistix、Tes-Tapeが尿糖の半定量法として実用化された。さらに血糖測定法としてGlucostatが市販され、この原理を応用したDextrostixが1964年に開発された。しかし試験紙の色調を比色表と目測により対比する方式であったため、読みの個人差があって正確性を要する場合は他の方法に頼らざるをえない状態であった。
 これらの欠点を補い、視覚に頼らずに光学的測定法を組み合わせたのがReflectance meterであった。判定目盛りは10より1000mg/dLで、10~70、70~180、180~1000mg/dLと3段階がつまみの回転で切り替えられる方式である。測定はDextrostixに血液を塗布して60秒間反応させて発色させ、洗浄ビンで血液を洗い落とし、ティシュペーパーで吸湿後メーターの測定孔に入れてリッドを押してさす目盛りを読むというものであった。
 当時我々はHagedornピペットで0.1mL吸い取り、Glucostat法により測定していたので、両者の測定値の比較を行った。検体として用いた血液サンプルはGTT施行時の130検体と正常人の70検体で、後者の55検体には血液2mLに高濃度のブドウ糖液を1滴づつ加え270mg/dL以上の高血糖サンプルを作った。人為的に作った高濃度検体は添加ブドウ糖が血球内外成分に均等に分布するように20分間放置後に測定した。

図 Reflectance meterによる測定値とGlucostat法による値の相関
 両者の比較はにみるようにγ=0.98と相関がよく、血糖値別では200mg/dL以下ではγ=0.88(p<0.01)、200mg/dL以上ではγ=0.94(p<0.01)、高血糖サンプルではγ=0.94(p<0.01)であった。測定値の差の平均と標準誤差をみると、200mg/dL以下では-7.4±1.5mg/dL(p<0.01)とGlucostat法より有意に低値であるが200mg/dL以上では-1.8±6.0mg/dLとなり有意性がなく、にみるように完全相関直線の両側に均等に分布した。またGTT時の比較、NaF添加の影響などについても検討した。
 この研究は大平誠一助手と、臨床検査師になったばかりの下城洋子技術員が2カ月足らずで仕上げてくれたので1971年の日本医事新報(No.2475)に発表した。米国の発表に1年も遅れない速さであった。
 若い医局員ばかりで教室はにぎやかで活気に溢れていた。

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