Diabetic Complication Topics

糖尿病患者の爪白癬
〜皮膚科医の立場から

福田 知雄 先生
(埼玉医科大学総合医療センター
皮膚科 診療科長・教授)

福田 知雄 先生

初出:『Diabetic Complication Topics』 No. 6(2018年7月発行)

糖尿病足病変の治療の要諦は早期発見と早期治療に尽きる。爪白癬も同様であり、二次感染や重症化のリスク因子の一つとして常に注視していくことが求められる。ただし、爪白癬の診断や治療は内科医にとって必ずしも容易でなく、皮膚科医に適宜コンサルトし管理にあたる必要がある。では、皮膚科医は、糖尿病患者を診る内科医にどのようなことを求めているのだろうか。足白癬・爪白癬に精通し豊富な臨床経験をもつ福田氏に、糖尿病患者における爪白癬の病態、診断と治療のコツ、近年登場した外用薬の使い方、内科医に期待することなどを伺った。

糖尿病患者の爪白癬は、二次感染のリスク因子として診なければいけない

――初めに爪白癬の疫学と病態について教えてください。

 爪白癬は通常、足白癬の病巣が拡大して爪に侵入することで生じる感染症で、爪真菌症の大部分を占めています。国内では人口の約2割が足白癬、約1割が爪白癬に罹患しているとされます。すなわち10人に1人、国内の患者数は1,000万人以上と考えられます。

――足白癬との違いは?

 足白癬は治療によって軽快しても容易に再燃し、治癒後の再感染もあります。一方の爪白癬の場合、感染が成立するまでに時間がかかる分だけ、いったん治癒までもっていければ再感染を防止することは難しくありません。ただし爪の成長は皮膚のターンオーバーより遅いため治癒するまでに時間を要します。治癒までに半年から1年、あるいはそれ以上かかることもあります。

 また、爪が肥厚・変形したり、割れやすくなったり、剥がれやすくなったりして、結果として外傷の原因・誘因になることも、足白癬と異なる注意点と言えます。これが糖尿病患者さんの場合により大きな問題となることがあります。

――糖尿病患者では爪白癬がどのような問題となるのでしょうか?

 糖尿病患者では慢性高血糖による免疫能の低下によって白癬菌の感染リスクが高くなることが最初の問題です。実際にわが国の疫学調査で糖尿病(高血糖を含む)は爪白癬の有意なリスク因子(オッズ比:1.47)であることが報告されていますmemo 1

memo 1
爪白癬のリスク因子

 国内の皮膚科専門医2,000名を対象に行われた足疾患に関する調査において、報告された外来患者2万1,820例のデータを解析した結果、糖尿病が爪白癬の有意なリスク因子として挙げられた。


# 2000年調査集計のみ。他は1999年調査を含む
##皮膚科外来受診時に高血糖であり、糖尿病未診断の者を含む
*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001
〔日皮会誌 111:2101-2112, 2001一部改変〕

 糖尿病による免疫能の低下は二次感染のリスクも高めます。肥厚・変形した爪が皮膚を傷つけやすくするということの他に、わずかな外傷や細菌の侵入によって周囲の皮膚の炎症「爪周囲炎」も生じやすくなります。

――糖尿病は、爪白癬の罹患リスクと足病変重症化リスクをともに高めるということでしょうか?

 はい。糖尿病患者の足に生じるさまざまな皮膚病変を「糖尿病足病変」と呼びますが、爪白癬もその一つと考えられます。爪白癬は外傷・潰瘍、さらには二次感染の原因・誘因となり、糖尿病足病変ではこの二次感染が下肢切断の大きなリスクファクターとなります。したがって、爪白癬は単なる真菌感染症と捉えるのではなく、常に二次感染と隣り合わせの疾患として考える必要があるのです。

 もう一点、糖尿病と爪白癬の関係で注目すべきことは、どちらも加齢とともに増える疾患だという点ですmemo 2

memo 2
糖尿病と加齢による爪白癬有病率の上昇

 米国における多施設の糖尿病患者550例と一般健常者2,001例を比較した調査から、糖尿病患者の爪真菌症(多くは爪白癬)の有病率は健常者の2.77倍であり、加齢とともに増加することが報告されている。


〔Br J Dermatol 139:665-671, 1998一部改変〕

この点は治療薬の選択にも関係してきます。

内科医には何よりも糖尿病患者の爪白癬を見逃さないことを求めたい

――ところで、爪白癬は足白癬に比べ自覚症状が少ないと思います。患者さんはどのようなかたちで受診されてくるのでしょう?

 糖尿病でない方の場合、やはりご自身で爪白癬の三徵候(白濁、肥厚、粗糙化〈もろくなること〉)が気になって受診されるケースが多いです。糖尿病患者さんの場合は爪白癬だけで受診されることは少なく、他の皮膚疾患、例えば足白癬や胼胝・鶏眼、あるいは高血糖によると思われる皮膚そう痒症の症状を訴えて皮膚科を受診された時に爪白癬も見つかるというケースが多いです。もちろん内科の先生方やフットケア外来などから紹介されてくることもあります。

――爪白癬の診断と治療は皮膚科にコンサルテーションしたほうがいいのでしょうか?

 爪に病変があっても必ずしも爪白癬とは限らず、正しく診断をつけて治療を開始するためには、真菌鏡検や真菌培養で白癬菌を確認する必要があります。また、治療においても、爪白癬はしばしば難治なケースがあり、治癒率を向上させるさまざまな工夫が求められることが少なくないため、皮膚科に紹介していただくのがよいかと思います。

 例えば病爪を部分切除したり軟化させて外用薬の効果を高めたりします。皮膚科ではそのような多くの工夫により、1人でも多くの患者さんを治したいと努力しています。長期に及ぶ治療期間中、患者さんへ経過を丁寧に説明し治療モチベーションを維持し続けていただくのにもテクニックが必要です。こういったことはやはり皮膚科医としての臨床経験が大いに役立ちます。

 先ほど爪白癬はしばしば難治だと述べましたが、早期であれば治療に対する反応がよく、短期間での治癒が期待できます。そのため、内科の先生方には、まず何よりも爪白癬を見逃さないことをお願いしたいと思います。アセスメントの徹底とともに、仮に糖尿病患者さんが下肢に限らず皮膚症状を訴えたら、ぜひ靴下を脱がせて足をチェックしていただきたいと思います。

 また、早期発見に加え爪白癬の発症予防のための患者教育も内科の先生方に取り組んでいただきたいところです。


――内科における爪白癬の患者教育と言いますと?

 爪白癬は足白癬を母地に発生しますので、足白癬があればきちんと治すことが基本です。「足白癬は痒いもの」というのは実は誤解で、実際には痒みを自覚する方のほうが少なく、たとえ痒みがあっても糖尿病で神経障害があれば自覚しにくい可能性があります。ですから患者さんの訴えを待っていたのでは早期発見につながりません。

 そして毎日足をしっかり洗うように患者指導をお願いしたいと思います。白癬菌が足部に付着してから感染が成立するまで1~2日かかりますから、毎日しっかり足を洗っていれば感染を防ぐことができます。また、こまめに爪を切ることも大切です。爪が長いということは、白癬菌の培地となる角質が爪甲下に溜まりやすく、また、洗いにくくなることを意味するからです。


爪白癬の病型や患者背景により治療薬をチョイス

――爪白癬の治療薬について解説してください。

 現在、爪白癬の治療薬には内服薬と外用薬があります。爪白癬の病型によって適宜両者を使い分けるのがコツです。内服薬は相互作用や患者背景によっては使用できないケースもあります。

――外用薬が有効な病型とは?

 爪白癬はいくつかの病型に分けられるのですが、その中で爪甲の遠位または側縁から爪甲の白濁が進行する遠位側縁爪甲下爪真菌症の病型と、爪甲の表面に点状ないし斑状の白濁が見られる表在性白色爪真菌症で外用薬が有用であると推奨されています。そして、内服薬が効きにくい楔形、爪甲剥離型においては、外用薬の有用性の方がより高いのではないかと考えられています。

――内服薬を使用できないケースとは?

 既に申しましたが爪白癬は高齢者に多いので、何かしらの内服薬を処方されていたり、肝機能や腎機能が低下していることが少なくないのです。そのため内服薬のさらなる追加がためらわれることがあり、糖尿病で内服治療中の患者さんであればその懸念はなおさら強くなります。また患者さんからは、副作用チェックのために定期的な採血が必要な点が忌避されやすく、内服治療の同意が得られないこともしばしばです。こういったケースでは、内服薬による治療が困難なため外用薬による治療を選択します。

――治療効果の判定はどのようにするのでしょうか?

 一番簡単なのは混濁している病爪と新たに伸びてきた正常な爪の比をみる方法です。治療開始後1カ月程度ではまだ新しい正常な爪は後爪郭(いわゆる甘皮)に隠れていますので、2~3か月後に効果を判定します。ただし肥厚や混濁が著しい場合、治療を半年から1年継続してようやく効果が認められてくることもあります。

――血糖管理状況が爪白癬の治療に影響することはありますか?

 血糖管理状態と爪白癬の関係を詳細に解析した報告はまだないと思いますが、実際に診療を行っている感覚では、血糖コントロールの悪い患者さんで重症例・難治例が多いと感じます。ですから糖尿病患者さんの爪白癬の治療は、内科医と皮膚科医の双方が上手に連携してあたるべきだと考えます。


糖尿病患者と内科医へ、皮膚科医からのメッセージ

――皮膚科医の立場で糖尿病患者さんへ最も伝えたいことはどのようなことですか?

 冒頭の繰り返しになりますが、糖尿病がある場合、爪白癬は足病変の重症化のリスクだという点です。また足白癬と共通の注意点として、ご家族へ伝播させてしまいかねないことも問題です。ご自身の足病変を防ぐためにも、ご家族の足を守るためにも、放置せずにしっかり治療を受けていただきたいです。

――糖尿病患者さんを診る内科医へ伝えたいことは?

 糖尿病患者さんの足に生じたわずかな病変が二次感染等を来して思いのほか急速に悪化し足の切断に至ることがあります。いったん足の切断に至った患者さんの経過は良好とは言えず、生命予後にも影響してきます。爪白癬は、その一連の流れの最初の一つであるということが、最も強調したいポイントです。

 また、進行した爪白癬の治療は皮膚科医でも難渋することがありますので、爪白癬を疑った場合、早めに皮膚科への紹介をお願いします。

福田 知雄 先生 プロフィール

埼玉医科大学総合医療センター 皮膚科 診療科長・教授 1987年 慶應義塾大学医学部卒業、同 皮膚科入局。国立東京第二病院、国家公務員等共済連合会立川病院などを経て、1991年 慶應義塾大学医学部皮膚科助手。1994年 杏林大学医学部皮膚科助手、2004年 同講師。2015年 東京医療センター皮膚科医 長。2016年から現職。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

この記事は、糖尿病合併症ニュースレター
『Diabetic Complication Topics』に
掲載されたものです。

監修・企画協力:糖尿病治療研究会
提供:科研製薬株式会社
企画・編集・発行:糖尿病ネットワーク

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