Diabetic Complication Topics

糖尿病患者の爪白癬
~糖尿病内科医の立場で考える

目黒 周 先生
(慶應義塾大学 医学部 内科学(腎臓・内分泌・代謝)専任講師 )

目黒 周 先生

初出:『Diabetic Complication Topics』 No. 4(2017年7月発行)

糖尿病フットケアにおいて足白癬への対応は避けて通れない。単に糖尿病患者において有病率が高いだけでなく、潰瘍などより深刻な病態へ進行するリスク因子となるためだ。足白癬に加え爪白癬もまた同様の問題を抱える。これまで足白癬に比べ対策が十分とは言えなかった爪白癬についても最近、外用薬という新たな治療選択肢が増えたことから、今後はより適切な介入が求められてくるだろう。そこで、慶應フットケアチームを立ち上げるなど長年フットケアの臨床に携わっている目黒周氏に、内科医として糖尿病患者の爪白癬にどう対応すべきかを語っていただいた。

血糖コントロール不良の糖尿病患者のほとんどに
爪白癬があると思ったほうがよい

──最初に、慶應フットケアチームの体制やフットケア外来の特徴をお聞かせください。

 私が済生会中央病院から当院に異動してきた2010年ごろ、血管外科など外科系の先生方の間では、自覚症状を訴えない潜在的な足病患者はかなり多いのではないかと話題になっていたようです。そこで「内科で患者の掘り起こしをしてみては?」と着想したことが慶應フットケアチー ム発足の原点です。診療報酬に糖尿病合併症管理料が新設されて、フットケア外来新設の気運が高まっていたことも関係していると思います。

 現在、我々の腎臓・内分泌・代謝内科と、血管外科、整形外科、形成外科、皮膚科、リウマチ内科など、大変幅広い診療科のドクターが関わって運営していることが当チームの特徴です。フットケア外来は週2回開設しており、水曜日は内科中心の予防的フットケア、木曜日は外科中心でより重症例に対応しています。水曜日に内科医が担当している時も常に形成外科医がオンコールでバックアップにつき万全を期しています。

──どのような患者さんが受診するのでしょうか?

 今のところ外部からは受け入れていません。院内の内科・外科を受診した患者さんの中から、足病リスクが高いと判断した方にフットケア外来の受診を促しています。実際には、受診者の大半を糖尿病患者が占めています。

──糖尿病患者さんには爪白癬が多いのでしょうか?

 血糖コントロール不良の糖尿病患者の足を診ると、ほとんどに爪の異常、例えば肥厚や変形がみられます。それらの全例を検査しているわけではありませんが、かなりの患者さんに爪白癬があるのではないかという印象があります。フットケア外来ではなく一般の糖尿病外来でも、相当な患者数が隠れているのではないでしょうか。糖尿病患者の3分の1に爪白癬があり、その頻度は健常者の3倍に近いとの報告もみられますmemo 1

memo1 
糖尿病爪白癬の有病率と危険因子
 既に爪白癬の治療を受けている者を除外した糖尿病患者550 例(年齢56.1歳、1型糖尿病が34%)を対象に爪白癬の頻度を検討した北米の多施設調査では、26%に爪白癬が認められた。これは健常者の2.77倍の頻度であり、糖尿病患者の約3分の1に爪白癬があると考えられるという。
〔Br J Dermatol 139:665-671, 1998〕

有病率の高さだけでなく、
重症化予防のためにも積極的治療が必要

──それほど多いとなると、爪白癬への対応を抜きにしては糖尿病患者のフットケアは成り立ちませんね。

 有病率の高さも問題ですが、より重要なことは、爪白癬の存在が足病の重症化を招くということです。この点について、例えば日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン2016』では、爪甲白癬による爪変形と不適切な爪処置が足潰瘍の引き金ともなる可能性を指摘した上で、「足白癬、爪甲白癬は適時治療することが勧められる」と述べています。日本皮膚科学会の『糖尿病性潰瘍・壊疽ガイドライン』でも同様の介入をグレードBで推奨していますmemo 2

memo 2 
各種ガイドラインにおける糖尿病爪白癬
 日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン2016』には「爪甲白癬による爪変形と不適切な爪処置が足潰瘍の引き金ともなりうることから、足白癬、爪甲白癬は適時治療することが勧められる」との記載がある。
〔日本糖尿病学会編・著:糖尿病診療ガイドライン2016,南江堂,243,2016〕
 日本皮膚科学会の『糖尿病性潰瘍・壊疽ガイドライン』には「足白癬や足趾爪甲白癬を治療することによって糖尿病性潰瘍の悪化を予防することは可能か?」とのクリニカルクエスチョンがあり、それに対し「糖尿病性潰瘍の悪化を予防するため、足白癬や足 趾爪甲白癬の治療を行うことを推奨する」との推奨文を掲げ、推奨度Bとしている。
〔日皮会誌 122(2):281-319, 2012〕

──患者さんは爪白癬の症状を訴えないのですか?

 糖尿病の方の場合、爪白癬に限らず足白癬であっても自覚症状をあまり訴えません。神経障害による知覚鈍麻のために痒みを感じづらいのかもしれません。もともと痒みのない爪白癬であればなおさらで、靴下を脱がし爪の混濁や変形を指摘して、ようやく「前から気にはなっていたが歳のせいだと思っていた」とおっしゃることが多々あります。ですから患者さんの訴えを待っていては治療につながらず、糖尿病患者さんの足を我々医療者が積極的に診ることが、治療のスタートと言えます。

──爪白癬を疑う所見と、診断法を教えてください。

 いま挙げたような、混濁や変形あるいは肥厚した爪は罹患している可能性が高いと言えます。文献的には爪表面の光沢なども挙げられています。反対に足白癬の既往がない場合や全ての爪に病変がある場合などでは、爪白癬は否定的です。

 爪白癬を疑い治療介入へと進めるには、KOH(水酸化カリウム)直接鏡検法または培養法などの真菌検査を行い、確定診断することが必須です。皮膚科医でも視診のみで診断を行うと、30%程度は誤った判断をするという研究結果※もあるため、決して視診のみで診断をしてはいけません。爪甲鉤彎症など爪白癬と肉眼所見が酷似した鑑別疾患が多く存在します。また、外用剤の添付文書にも「直接鏡検又は培養等に基づき爪白癬であると確定診断された患者に使用すること。」と記載されています。

 そのため従来は爪白癬が疑われる症例を全て皮膚科に紹介するか検体を培養に出していましたが最近、少しずつ自分でもKOH直接鏡検法を始めました。患者さんの爪から検体を採取し、それを皮膚科に持っていき自分で顕微鏡を覗いて判定するのです。判定に自信をもてない時にはすぐ皮膚科の先生にコンサルトさせていただくなどして、診断のコツを学んでいます。検体採取自体も白癬菌が多くいそうな場所を選んで削るなどテクニック が必要です。通常、内科に顕微鏡など機材が揃っていることは少ないので、病院であれば、皮膚科の先生や臨床検査部などに依頼し、開業医であれば近隣の皮膚科の先生に紹介し、確定診断してもらうのが良いでしょう。

爪白癬に介入することが、
フットケアの効果をより高める

──診断が確定した患者さん全てに治療介入されるのでしょうか?

 基本的には爪白癬と確定診断された全ての患者さんに治療を提案しています。治療手段が内服薬だけだったころはポリファーマシーや副作用チェックの負担などのために積極的な治療を勧めづらかったのですが、外用薬を使えるようになりそれらの不安が少なくなりましたので、フットケアの効果を高めるためにも治療を勧めています。

──爪白癬の治療でフットケアの効果が高まると言いますと...

 糖尿病のフットケアがなぜ必要かと言えば、足病の重症化予防、特に下肢切断の予防が究極の目的であり、そのリスクを下げるために行うもので、爪白癬もそのリスク の一つだからです。爪白癬により肥厚や変形が進んだ爪を放置すると新たな傷を作る原因となり、いったん傷を負うとそこが細菌の侵入門戸となり、場合によっては難治性の潰瘍へと進展しかねません。

 また、白癬に罹患した爪は割れやすいため、普段のフットケアの際にも爪切りの際に細心の注意を求められます。爪白癬を治療することでこのようなリスクを全体的に下げられます。もちろん罹患していない爪への伝播を防ぐという意味もあります。

 さらに、外用薬による治療の場合は毎日、 患者さん自身が薬を塗布するので、足を観察する機会としていただけます。外来で「毎日ご自身で足をチェックしてください」と伝えてもなかなか実行していただけませんが、それを自然な形で行っていただけるわけです。

──糖尿病治療のモチベーションも高まりそうですね。

 ご自身で日々足をご覧になって少しずつ爪がきれいになっていくことがわかるので、治療継続の励みになるようです。爪白癬の治療が終了した後も、糖尿病治療に対する高いモチベーションを持ち続ける方が少なくありません。

 同じことは医療者にも当てはまり、「患者さんの足をきれいにしてあげたい」という思いがあります。糖尿病はある意味バーチャルな疾患で、内科医は普段、検査値を頼りに治療にあたることが多く、治療効果を目に見える変化として確認できる機会があまりありません。そんな中、爪白癬の治療はその効果をありのまま実感でき、満足感を得られます。私自身、その満足感がさらなるスキルアップに向けた意欲につながっています。


内科-皮膚科の効率的な連携で
確実な診断・治療と患者メリットを両立

──内科と皮膚科のどちらで薬剤処方されているの ですか?

 それはケースバイケースで、診断をお願いした皮膚科で処方していただく場合や、皮膚科で診断後に内科へ戻していただいてこちらで処方する場合などがあります。なお、内科であれば糖尿病合併症管理料の中で、爪白癬治療に伴う爪切りや角質除去、足浴などの処置も行うことができるため総合的なフットケアが可能です。

 患者さんの立場に立つと、血糖管理などの内科的治療と爪白癬の治療を一つの外来で受けられるのはメリットに違いなく、治療の脱落防止につながると思います。確実な診断と治療継続、患者負担の軽減のため、皮膚科医と内科医がより良いかたちでの連携を確立できればと考えています。


──薬剤はどのように使い分けられていますか?

 既に何度か触れましたが、爪白癬の治療薬は以前、内服薬のみでしたが数年前に外用薬が使えるようになりました。後者は全身性副作用の不安が少ないことやポリファーマシーの回避という点でメリットがあります。糖尿病の患者さんは血糖管理に加え種々の合併症・併発症の治療のために既に多くの薬剤を処方されていたり高齢者も多いことから、外用薬の特徴が生きてくるケースが多いように感じます。

──効果はいかがでしょう?

 混濁などの所見は爪が生え変わるとともに明らかに改善します。しかし強く変形してしまった爪はなかなか難治であることは否めず、治療のゴールをどこに設定すべきか悩みます。ただ、そうであってもさきほど述べたように、爪白癬を治療することでフットケアへの関心を高めるなど糖尿病治療全体への波及効果を期待できます。結果として、下肢切断を防ぐというゴールに到達する確率を高められます。ですから、特に潰瘍の既往があるなど切断リスクが高い患者さんには、難治と思われても積極的に介入すべきと考えます。

 済生会中央病院に勤務していた頃、同じ職場の富田益臣先生(現:下北沢病院糖尿病センター長)が糖尿病足 潰瘍のリスクスコアを開発されました。memo 3特別な 検査を必要としない使い勝手がよいスコアです。このようなツールを利用してリスクの高い患者さんを抽出し、爪白癬を含めてアセスメントし適切に治療していくということの繰り返しが、糖尿病患者さんの下肢切断を少しずつ減らしていくのではないでしょうか。

memo 3 
糖尿病足潰瘍のリスクスコア(AAAスコア)
 糖尿病罹病期間15年以上を2点、両眼での矯正視力0.5以下 を6点、eGFR 60mL/分/1.73㎡以下を2点、独身を3点、肉体労働者を4点とし、合計が7点以上の場合、糖尿病足病変国際ワーキンググループ(IWGDF)が、半年に1回以上の診察を推奨するカテ ゴリー1以上に該当する可能性が高く(感度56.9%、特異度95.2 %)、ハイリスクと判定可能。なお、本スコアは、下肢切断を減らすための社会活動'Act Against Amputation'に活用され「AAAス コア」と称されている。
〔Tomita M,et al.Diabetology Int 6:212-218, 2015〕

目黒 周 先生 プロフィール

慶應義塾大学 医学部 内科学(腎臓・内分泌・代謝)専任講師 1993年 北海道大学医学部卒業。慶應義塾大学病院内科を経て、2001年から東京都済生会中央病院 糖尿病・内分泌内科に勤務し糖尿病フットケア外来などを担当。2010年慶應義塾大学医学部 腎臓・内分泌・代謝内科助教。同院のフットケアチーム設立に関わる。2012年から現職。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

この記事は、糖尿病合併症ニュースレター
『Diabetic Complication Topics』に
掲載されたものです。

監修・企画協力:糖尿病治療研究会
提供:科研製薬株式会社
企画・編集・発行:糖尿病ネットワーク

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