糖尿病合併症 最前線

糖尿病性足潰瘍の治療と管理
 〜神戸分類に基づく提言〜

寺師浩人 先生(神戸大学大学院医学研究科形成外科准教授)

寺師浩人 先生

初出:『糖尿病合併症 最前線 SEASONAL POST』 Vol. 4 No. 1(2012年3月発行)

糖尿病性足潰瘍の新分類「神戸分類」が求められた背景

 糖尿病による足病変は原因が多岐にわたる。病態の正確な把握は極めて重要で、病態に則さない治療は逆効果となり、時に壊死の急速な拡大による大切断、敗血症による不幸な転帰につながることもある。しかし、糖尿病性足病変を正確に診断し、適切なタイミングで適切な治療が一施設内で完結可能な医療機関は数少なく、まして診断から治療を一人でなし得る医師は、現状では存在しないと言ってよいだろう。
 その理由としてまず、欧米では専門資格職として定着している足病医(podiatrist)制度が国内に存在しないことがあげられる。そもそも我が国では、糖尿病性足病変の重要性が比較的近年になって問題化してきたことから、医師・看護師養成機関において十分な教育が行われていない。加えて、糖尿病患者数の急増から内科外来はどこも混雑しており、主治医が患者の足をゆっくり観察する時間がない。こうしたことから現在、下肢診療の限られた医療資源をいかに効率的に用い最善の治療に結び付けるか、臨床の現場は手探り状態にあると言える。
 このような現状においては、糖尿病患者の足を診察する臨床医が幅広く活用できる簡便さと、治療優先度判定のための実用性を兼ね備えた病態把握ツールが求められる。糖尿病性足潰瘍の分類として教科書的にはワグナー分類やテキサス大学創傷分類が知られているが、いずれも海外で開発されたものであり、上述の我が国の実情に則していない。
 筆者らは重要性を増す下肢診療を巡る諸問題を現場の視点で解決すべく、近隣医療機関の多岐にわたる診療科医と協力して「神戸Podiatryミーティング(下肢の創傷治療を考える会)」(代表世話人:神戸労災病院心臓血管外科部長・脇田昇氏)を2003年にスタートさせた。その活動の一環として、糖尿病性足潰瘍の新分類「神戸分類」を2010年に発表した。その概略を紹介する。

神経障害、血行障害、感染の有無で病態を把握し4タイプに分類

 神戸分類では、糖尿病性足潰瘍の病因を神経障害、血行障害、感染に大別し、その病態を創傷治療の観点から表1のように4タイプに分類する。

タイプⅠ:神経障害主体の潰瘍

 タイプⅠは神経障害主体のもので、古くから知られている。糖尿病を診る医師にとっては最も馴染み深いタイプの潰瘍と思われるので詳述は避けるが、自律神経障害が末梢細動脈─ 細静脈シャント形成を促し局所血行障害・代謝障害を惹起したり、汗腺機能低下や運動神経障害とあいまって足底潰瘍発生に関与していることは意外に知られていないようだ。神経障害診断後は患者自身で足をより入念に観察するよう指導の徹底も必要となるだろう。

タイプⅡ:血行障害主体の潰瘍

 血行障害(PAD)主体のタイプⅡは、臨床所見からタイプⅠとある程度鑑別できる。表2にタイプⅠとⅡの典型例の相違点を示す。タイプⅡの特徴がみられる潰瘍では、後脛骨動脈や足背動脈のドプラー聴取、ABI、SPP測定などによる正確な血行評価が重要であり、血行が改善されていない状態での外科的な創傷治療は、創傷悪化(壊死の拡大)のリスクを伴う。
 血行障害が認められた場合、抗血小板薬、血管拡張薬による内科的治療を開始するとともに、末梢血行再建術を施行する。治療薬としては、プロスタグランジンI2 製剤であるベラプロストがPADにおけるABIや間歇性跛行距離の改善が報告されており、循環動態への副作用が少なく使いやすい。

タイプⅢ:感染主体の潰瘍

 糖尿病患者に発生した感染性足潰瘍は、神経障害や視力低下等による発見の遅れにより、初診時すでに重症化していることが少なくない。急性軟部組織感染症が確認されればデブリードマンを徹底し、開放創として毎日流水にて洗浄する。通常、消毒は必要ない。感染終息後に創傷治療を進める。なお、タイプⅡの治療では足浴が有効なこともあるが、タイプⅢでは感染を悪化させることがあり、禁忌である。

タイプⅣ:複合要因による潰瘍

 最も慎重な病態把握が求められるタイプの潰瘍である。血行障害の改善のために施行するはずの血行再建術がかえって感染を全身に拡大させてしまう可能性もある。反対に血行障害が改善される前に行う感染創のデブリードマンは壊死を進行させる恐れもある。双方の治療をどのタイミングで実施するかの判断を含め、血行再建担当医と創傷治療担当医、および足の頻繁なケアを可能とするコメディカルの密接な連携が救肢の鍵を握る。

PAD: peripheral arterial disease
ABI: ankle-brachial pressure index
SPP: skin perfusion pressure

神戸分類に基づく創傷治療戦略と、予防的治療の重要性

 以上の神戸分類に基づき、糖尿病性足潰瘍の局所 創傷治療をアルゴリズムで示すとのようにまとめられる。詳述する誌面はないが、基本的には血行障害がある場合はその治療を優先させ、その後、創傷治療へと移る。創傷治療においては潰瘍や褥瘡治療の臨床で必須のbFGF製剤が、糖尿病性足潰瘍でも既に多用されている。同薬は血管新生、肉芽形成促進作用をもつbFGFのスプレー製剤で、糖尿病性足潰瘍に特化した臨床試験が行われて有意な効果が認められた※1 唯一の製剤であることが「糖尿病性潰瘍・壊疽ガイドライン」(日皮会誌: 120(10), 1997-2035, 2011)にも取り上げられている。
 創傷の局所治療と並び、もちろん血糖の制御も欠くことができない。高血糖状態では創傷治癒過程に必須の表皮角化細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞の増殖が抑制され、治癒が遷延してしまうためである。よって、外科的治療が主体となりがちな足病変の急性期においても、内科医による的確な血糖管理が求められる。
 もっとも、内科医に求められる役割としては、足病変一次予防への一層の傾注であろう。足潰瘍は、それを治癒させ歩行可能な状態を維持させ得るか、もしくは壊死から下肢切断へと進行させてしまうか、その分岐点とも言える。そのような状態になる前の予防的介入がより効果的な対策であることは間違いない。
 下肢切断防止のエビデンスのある薬剤は少ないが、軽度脂質異常症を併発した2型糖尿病患者を対象としたFIELDスタディで、フェノフィブラートが初回下肢切断リスクをプラセボ比36%有意に減らすことが示されており※2、注目に値する。糖尿病患者の足に潰瘍を生じさせないために、日頃の患者教育とできるだけこまめな観察、そして適切な内科的治療を期待したい。

※1 Uchi H, et al. : Eur J Dermatol., 19(5), 461-468, 2009
※2 FIELD study investigators. : Lancet, 373(9677): 1780-1788, 2009

bFGF: basic fibroblast growth factor

寺師浩人 先生 プロフィール

神戸大学大学院医学研究科形成外科准教授。 1986年 大分医科大学卒業、同大学附属病院皮膚科形成外科入局。1997年 米国ミシガン大学医学部形成外科Visiting Research Investigator。2001年 大分医科大学附属病院皮膚科形成外科講師、神戸大学医学部附属病院形成外科助教授。2007年から現職。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

監修・企画協力:糖尿病治療研究会
企画・編集・発行:糖尿病ネットワーク
提供:科研製薬株式会社

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